アパシーシンドロームの診断方法と治療法。

疲れがたまっていたり、職場にストレスがかかるような状況があると仕事に行くのはおっくうになるものです。ところが、最近、会社の人間関係にもシフトにも問題がないのに、急にやる気が出なくなって会社にも行けなくなってしまう人が出てきました。

この症状はアメリカや日本などの先進国に多く、アパシーシンドローム(無気力症候群)と呼ばれています。自分や身近な人がアパシーシンドロームかもしれないと思った時の対処方法を説明します。

 

アパシーシンドロームとは

無気力(アパシー)症候群とも言い、名古屋大学名誉教授で精神科医の笠原嘉(カサハラヨミシ)氏が提唱している退却神経症と同じ病気だと考えられます。五月病や新型うつ病とも似ているところがあります。

 

アパシーシンドロームの人は、主に本業に対して関心を失い、やる気をなくします。しかし、趣味や娯楽など本業以外のことは問題なく動けるので、怠けていると勘違いされることが多いです。

 

アパシーシンドロームは「しなければいけないこと」からの逃避行動とも定義できるでしょう。アパシーシンドロームの無気力の状態が長引くと出社できなくなってしまうこともあります。

 

アパシーシンドロームの特徴

無気力・無関心・無感動

大きなプロジェクトを成功させた後など、ほっとして気が抜けることがあります。プロジェクトの成功に向けて体力的にも精神的にも相当無理をしてきたはずですから、一時的に無気力になるのは誰にでも起こり得ることです。

 

しばらく休養すれば、また意欲を取り戻すのが普通ですが、アパシーシンドロームの場合は1週間休んでも2週間休んでもやる気が湧いてきません。今まで一生懸命やってきた業務に関心がなくなり、いくら励まされても心が動きません。

 

本業以外は普通にできる

無気力の対象が本業のみに限定されるのもアパシーシンドロームの特徴です。仕事には行けなくても、友達とウィンドウショッピングをしたりカラオケに行くのは問題なかったりします。ごはんも普通に食べられますし、睡眠障害も起こしません。

 

本人に苦痛がない

仕事には行けないのですが、そのほかの生活にはあまり支障がないため、本人が苦痛を感じていないのもアパシーシンドロームの特徴です。うつ病になると、本人は自分を責め、普通と違うことに焦りを感じるものですが、アパシーシンドロームの人は無感動になっているので、周りと違うことが気になりません。

 

思考が大人になりきっていない

遊びには行けるのに仕事には行けないというのは、ただのわがままとも見えますが、アパシーシンドロームを発症する前は優秀で模範的な良い子とみられていた人が多く、その変わりように周囲の大人は驚きます。

 

しかし、子どもの頃の努力は親や教師の期待に応えるためのがんばりで、当人は親や教師が定めた目標に対して主体的な興味を持っていないことがあります。

 

普通の子どもは思春期に親や周囲の大人の価値観に反発し、自分の力で生きていく思考力を磨いていくのですが、反抗せずに良い子として育ってしまうと、親や教師の手が離れた時に何をして良いかわからなくなってしまうのです。

 

社会に出ると挫折は付き物です。いつでも自分の思い通りに行くとは限りません。子どもの頃に挫折した経験がなく社会人になるのは、受け身の練習をせずに柔道の試合に出るようなものです。そのため、一度の挫折が深い心の傷になり、立ち直れないことがあります。

 

治療が難しい

うつ病であれば、レクサプロやデパスのような薬で症状が軽減されることもありますが、アパシーシンドロームに有効な薬はまだ発見されていません。

 

さらに、アパシーシンドロームの人は苦しいとか早く回復したいという焦りがありませんので、自分から治療を受けようとしません。家族に付き添われて病院に来ても、本人に病気を治したいという意思が欠けているので、医師が処方する薬を飲むのを忘れ、医師からのアドバイスも真剣に受け止められないので、治療は難しいと言われています。

 

アパシーシンドロームになりやすいタイプとは

若い男性

患者は10代後半から20代前半の男性に多く、大学生が多く発症しているためスチューデンド・アパシー(学生の無気力)と呼ばれることもあります。しかし、近年、男女雇用機会均等法の施行に伴い、女性も競争社会に巻き込まれるようになった結果、女性の発症者も増加傾向にあります。

 

完璧主義者

すべての人は不完全なので、何でも完璧にこなすのは不可能です。どんなに優秀な人でも失敗はします。普通の人は一度の失敗が人生すべての失敗ではないことを知っています。失敗したら、少し戻ってやり直せばよいのです。完璧主義の人は自分の失敗が許せません。そのため、一度の失敗や、身近な人からの冷たい一言が心に深く刺さり、うまく立ち直れないことがあります。

 

勝気な性格

アパシーシンドロームになりやすい人は、プライドが高く、誰かから拒絶されることに極端に敏感で、叱られるとか、批判されることが嫌いです。

 

数字や成績にこだわり、常にトップでなければ気が済みません。トップを維持できそうにない時は、逃避行動をとり、本気で取り組まなかったからと言い訳をします。誰かに教えてもらうのが苦手で、とにかく自分で何とかしようとします。

 

模範的な良い子として育ってきた

親や先生に言われるままに勉強して、優秀な成績を収め、エリートコースを走ってきた人がアパシーシンドロームになりやすいと言われています。人は成長段階で挫折と立ち直りを経験します。長期的な目標に向けて自分で小さな目標を定めてクリアし、クリアできない場合はほかの方法を考えます。

 

しかし、良い子で育ってきた人はこういったプロセスを経験せずに社会人になっているので、いざ目標を達成して周りの目や手が離れると自分一人の力で立つことができません。敷かれたレールの上を順調に走って来たのに、目的地に着いてレールがなくなってしまうと、この先どう走ったらよいかわからなくなってしまうのです。

 

アパシーシンドロームの診断方法

 

アパシーシンドロームについての研究はまだ始まったばかりで、世界共通の診断基準もまだ確立されていません。アパシーシンドロームに特徴的な症状があるかを一つずつチェックしていくことで、診断が行われます。

 

特徴的な症状としては、まず第一に「やらなければいけないこと」に対して無気力(アパシー)、無関心であることが挙げられます。しかし、うつ病のようにすべてのことにやる気を失うのではなく、自分の好きなことには積極的に取り組めるのが特徴です。うつ病のような耐え難い不安感や焦燥感がなく、本人に苦しいという自覚がありません。

 

さらに次の要素を総合的に考慮します。(1)生きることへの興味を失う(2)ひきこもり(3)脳やホルモンの働きは正常なのに抑うつである(4)漠然とした不安感がある(5)楽しい・うれしいという感覚が薄い(6)どうでも良いという感情から、いつまでも寝ていて起きてこない。

 

うつ病との違い

うつ病は気分障害に分類されるのに対し、アパシーシンドロームは神経症に分類されます。うつ病の場合は、自分には価値がないと思う気持ちや、将来に対する不安感、病気が治らないことからくる焦りなど、自分を責める感情が波のように押し寄せてきてとてもつらく感じます。

 

仕事だけでなく、今まで好きだったことへの興味も失い、日常のささいなこともできなくなってしまいます。働く意欲だけでなく、食欲や性欲などあらゆる欲望が失われ、眠ることもできず、生きていること自体が苦しくなる人もいます。

 

アパシーシンドロームの場合は、無気力だけでなく、無感動・無関心になるので、周りがどんなに心配しても本人は苦痛を感じません。楽しい、うれしいという感情だけでなく、苦しい、悲しいという感情も失ってしまうのです。

 

やる気がなくなるのは「やらなければいけないこと」だけで、趣味や好きなことには情熱を傾けることもできます。アパシーシンドロームの人は、20歳の若さにして、悠々自適な隠居生活に入ってしまったかのようです。

 

うつ病の人が積極的に他者に助けを求め、誰かにそばにいてほしいと望むのに対して、アパシーシンドロームの人は他者と関わることを望みません。うつ病の人は、自分から病院に行って、医師のアドバイスを求め、処方された薬をきちんと飲んで、早く良くなろうと懸命に努力しますが、アパシーシンドロームの人は改善する必要を感じません。周りが心配して病院に連れて行っても本人に問題意識がないため、継続的な治療ができず、症状が悪化してしまうと治療は困難です。

 

どんな治療法があるの?

アパシーシンドロームはうつ病と根本的に違う病気ですから、うつ病の薬が使えません。また、最近、注目され研究が始まったばかりの症状ですので、有効な薬や治療法もまだ確立されていないのが現状です。

 

アパシーシンドロームの人は生い立ちや人格形成に問題があることが多いので、カウンセリングなどの精神療法で人格の成長を促すことが有効とされています。患者だけでなく、患者の家族との面談も行います。

 

症状が軽いうちはセルフケアでアパシーシンドロームから脱け出すことが可能です。アパシーシンドロームになっている人は生活リズムが狂っていることが多いので、まずは生活リズムを整えることから始めます。

 

遅くても夜11時までには布団に入り、朝は日の出とともに起きましょう。朝・昼・晩と規則正しく三食を食べること、スナック菓子やカップラーメンなどではなく、肉や野菜など栄養バランスをよく考えた食事を取ることも大切です。1日のうち少なくとも1回は外に出て、散歩やジョギングなどの軽い運動をすると良いでしょう。

 

【まとめ】アパシーシンドロームは早めの治療がカギ

優秀で生真面目な人がなりやすいアパシーシンドロームですが、早めに気が付けば回復は容易です。記事を読んでアパシーシンドロームになりやすいタイプだと気がついたら、普段からストレスをためない工夫を始めましょう。